お盆休み特集 昭和を振り返る;第14話;木炭車
(2017年8月28日記)
戦争中の標語に「欲しがりません,勝つまでは.」というのがあった.
戦争末期から戦後のしばらくの間,物不足は特にひどかった.私は物心がついた頃から,そんな環境で育っていたので,今と比較すると極貧の生活だったが,特に貧しかったとか辛かったという記憶はない.そんな時代でも,子供達はそれなりに楽しく過ごしていたのだろう.
戦後になると,さすがに「月月火水木金金」で働くということもなくなった.
とはいえ,今と違って休日を過ごすための特段の娯楽もない.でも,決して手持ちぶさたではなかった.あの頃,休日をどうやって過ごしていたんだろう? 今から振り返ると不思議である.
いくらか覚えている記憶をたどると,自宅から小諸駅前を通って,懐古園や千曲川まで頻繁に遊びに行っていた.
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小諸駅前には千曲自動車の乗合バスが何台か停まっている.その頃は大きな自動車だなと思っていたが,今の一般的なバスに比較すれば随分と小さいボンネット型のバスである.バスの乗降口の側に格好いい鞄を肩に掛けた車掌が居る.車内には「コ」の字型の座席がある.バスの定員が何人ぐらいだったか正確には覚えていないが,座席は,多分,10名一寸分ぐらいしかなかったと思う.
当時はガソリン不足である.バスはすべて木炭車である.
バスの車体最後部に円筒形の装置がついている.大きさは多分直径1メート弱,高さ約2.5メートルほども会っただろうか.寸法は定かではないが…
この筒の中に木片をいっぱい入れる.そして装置の株にある火口から点火,車掌が手回しの送風機をがらがらと回して,点火した木炭を燃やす.
私には木炭車が動く仕掛けは良くわからないが,多分,円筒形の装置の中に入れた木片を不完全燃焼させ発生する何かの気体を燃料にしたのだろう.
私が住んでいた東信州は平らな道はほとんどなく,どこへ行くにも坂道である.しかも舗装された道路などほとんどない凸凹道である.
木炭車は,常にローギヤーで,あえぐような音を立ててやっとこさ坂道を登る.時には乗客全員が降りて,急坂を登るということもあった.途中でエンコしてしまうことも希なことではなかった.
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そういえば汽車も大変だった.
信越本線の田中辺りから小諸,御代田付近まで,1000分の25という急坂が連続している.その頃,信越本線の機関車が何を炊いていたかはっきりとは覚えていないが,ときどき炭水車に乗って通学した経験では,木材を燃やしているところは見たことはないが,一説によると蒸気機関車でも木材のチップを燃料に使っていたという(これは未確認).
いずれにしても,そんなに良い石炭は使っていなかったんだろう.長い坂道に差し掛かると,列車の速度は極端に遅くなり,時には坂の途中でエンコしてしまうこともあった.
エンコしたときは,いったん,平坦なところまで逆戻りして,勢いを付けて坂を登り切ることもあった.
学校帰りに上田駅から信越本線の列車に乗る.小諸の隣駅の滋野駅から,1000分の2の長い急勾配を登り切ると,西原付近で線路が平坦になる.進行方向右手には布引観音のある山がシルエットになって見えている.前方には西日を反射して光っている壁の家が沢山見える.小諸は白壁の町だった.
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あれから幾星霜.
私が通った信越本線は,第三セクターのしなの鉄道になった.あのでかくてごついD50やD51は姿を消して久しい.その代わりに電車が急勾配など”なんのその”,軽快に走っている.
木炭車が停まっていた駅前はすっかり近代化され,東京方面からも大型バスが発着するようになっている.
当時の幹線道路といえば,あの凸凹道一方だけだったが,今は高速道路四通八達している.
多少長生きしているとはいえ,私一人の人生なんて歴史の中ではほんの一瞬に過ぎない.でもこのほんの一瞬に世の中が随分と変わってしまった,今更ながらビックリしている.
(第14話おわり)
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